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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)899号 決定 1970年9月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人平松久生の上告趣意第一は、単なる法令違反の主張であり、同第二は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

職権によって調査すると、原判決およびその是認する第一審判決は、本件交差点は、信号機による交通整理の行なわれている交差点であるが、被告人の進行していた道路は幅員が約一二、一メートルであるのに対し、これと交差する道路の幅員は約一六メートルであり、信号機はやや時差のある変則信号であり、交差点付近手前までは人家のため見とおしが悪いのであるから、自動車運転者としては、右交差点に進入するについて、徐行して左右道路の車両との交通の安全を確認すべき注意義務があるとして、これを怠った被告人に過失があるとしているのである。しかし、右のような事情がある場合でも、いやしくも信号機の表示するところに従って運転をすれば、他の道路から進入する車両と衝突するようなことはないはずであるから、自動車運転者としては、信号機の表示するところに従って自動車を運転すれば足り、いちいち徐行して左右道路の車両との安全を確認すべき注意義務はないものと解するのが相当である。

そうすると、原判決および第一審判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるが、原判決の判示するところによると、被告人は、自己の進路の信号機が赤色の信号を表示しているのに、あえて交差点を突破しようとしたものであるというのであるから、同判決が被告人に過失責任を認めたのは、結論において相当である。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条 三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

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